ドルフィンキックは、なぜ進むのか

ドルフィンキックは足を上下に動かすことにより前方への推進力を生み出しています。水泳の世界では足の甲で水を押して前に進むと言う人もいますが、間違いです。また、身体をアンジュレーション(波打つように動かす)ことで水の中をすり抜けるようにして進むという人もいますが、それも間違いです。ここでは何故上下に動かすと前に進むのかを考えてみたいと思います。

3つの推進力

推進力には3つのタイプがあります

推進力のタイプ

抗力

揚力

反作用

一つずつみていきたいとおもいます。

抗力とはなにか

手で水をかきます。すると手が水をかくのを邪魔しようとする力が手にかかります。これが抗力です。掌で水を押すと、水は掌の縁から逃げて掌の反対側で渦を作り掌の動きを邪魔します。この力が腕・肩・身体の順に伝わって身体を前に進める推進力になります。

手の抗力で泳ぐということは、肩から身体を引きずられるようなものです。水泳が肩を痛めやすいのはこういうところにも原因がある可能性があります。

揚力とはなにか

スカーリングをして得られる推力のことです。水が流体として掌の上下を流れるとき、流線の長い方に引き寄せられます。あの重たい飛行機が揚力で浮き上がるわけですから、この力も無視できません。S字ストロークを考えてみます。S字は縦に腕を動かすことと、横に腕を動かすことの組み合わせです。横にうごいている動きだけを考えると、それにより揚力が発生していると考えられます。つまりS字ストロークは揚力と抗力の両方を得ていると考えることができるのです。

反作用つまりドルフィンキック

魚の推進力はアジ型推進力、イカ型推進力、ウナギ型推進力など色々あります。多くの魚、とくに高速で泳ぐ魚はアジ型推進力をつかっています。イルカもアジ型です。アジ型は尾びれを動かすことにより推進力を得ています。

尾びれを動かすと何故前に進むのか?

尾びれを動かすと何故、推進力が生まれるのでしょうか?尾びれを振ると、振った尾びれの後ろ側に渦ができます。この渦を振り戻すときに後ろに放り出すのです。

水泳でのドルフィンキックで考えてみます。脚を下向きに振ります。すると足の裏の部分に渦ができます。次に脚を上にもどします。そのとき脚の裏で作った渦を後ろに送り出すことになります。この送り出した渦の反作用で身体が前に押されます。

つまり、脚を打ち下ろして、戻した瞬間から渦を後ろに送り出すことによって推力が生まれるのです。決して足の甲で水を押して推進力を得てるのではないのです。

渦で飛ぶ鳥や昆虫について

このアジ型推進力、つまり渦を後ろに送りだして推力を得る方法は、生物ではもっとも沢山使われている方法と言えるとおもいます。鳥の一部は揚力も使いますが、殆どの鳥や昆虫はバタバタとすることで後ろに空気を送って空中を飛びます。魚の多く、とくに高速で泳ぐさかなは、身体の一番うしろについている尾びれでジェット噴射のように水を後ろにおしだしているのです。人のやるドルフィンキックも同じです。脚の動きが逆転することで渦を後ろに放出しているのです。

アンジュレーション(身体をくねらすこと)は何か?

イルカが泳いでいる動画を見てほしいとおもいます。イルカが尾を上下すると身体がそれにひっぱられて上下に動こうとします。それを打ち消すために、イルカは僅かに身体を振ります。

ドルフィンキックのアンジュレーションも同じです。脚を上下に振ると、脚の水に対する抗力で脚腰が上下に動こうとします。

たとえば、脚を下にキックしたときは抗力によって足腰は上に持ち上げられます。放置すると身体全体が持ち上がります。それを避けるため、サスペンションとして胸の下から腰だけを移動させ、それによって胸から上が移動するのを防ぐ動作がアンジュレーションなのです。

つまりアンジュレーションは受動動作であって、能動的にするものではないのです。

アンジュレーションによって前に進むことは可能か?

魚の中には身体をアンジュレーションさせて推力を得ることがあると知られています。たとえば、思いっきり素早く胸をまげて身体をアルファベットの「C」のように曲げることができたとします。するとそこに水が入っていくために渦ができます。この渦を今度は逆向きに身体を反らす事により後ろに送ることが出来ればアンジュレーションで水中を進むことができますが、普通の人間には無理なのです。ですからアンジュレーション自体が推力を生んでいることはなく、また水のなかをすり抜けていると思っていても、それは幻想ということになります。

ドルフィンキックで早く進むには

まとめますと、ドルフィンキックで大きな推力を得るには、素早く脚の動かす向きを変えながら沢山脚を振り、それによって身体が振動するのを防ぐため受動的にショックアブソーバーとして最小のアンジュレーションを使い進行方向を定めるというのが良いとなるのかもしれません。

参考文献

キック泳で推進するカギは足裏の渦にあった(筑波大学)